フルトンvs井上尚弥|判定決着までもつれ込む可能性は?
7月25日(火)、WBC&WBO世界スーパーバンタム級王者スティーブン・フルトンとの一戦を迎える井上尚弥。ここまでの井上は、24勝21KOという戦績によって、判定決着とは縁遠いノックアウト・アーチストだ。
KOアーチスト井上相手にフルトンは判定決着に持ち込めるのか
強打で知られる井上尚弥が12ラウンド判定にまで持ち込まれる仮定の話をするだけでも、彼の忠実な信奉者たちは笑い出すだろう。日本が誇るこの3階級世界王者は本物のノックアウト・アーチストだ。KO率は驚異的な87.5%である。フルラウンドを戦うことは念頭にはないだろう。
約10年のプロボクサーとしてのキャリアで、井上(24勝0敗、21KO)は12ラウンド制の試合を12回経験している。そのなかで判定にまでもつれ込んだことは2回しかない。2016年、ライトフライ(ジュニアフライ)級の戦いでデビッド・カルモナは「ザ・モンスター」こと井上の強打に耐え抜き、0-3の判定負けにこぎつけた。2019年の年間最高ファイトに選ばれたバンタム級の戦いでは、ノニト・ドネアが井上をそのキャリアで最も苦しめたが、やはり0-3判定負けに終わった。
井上は次の戦いではスーパーバンタム級で無敗を誇る統一王者スティーブン・フルトンと対戦する。この両者の対戦は7月25日に東京の有明アリーナで行われる。
ボクシングの歴史を紐解くと、階級を上げたファイターはきまって判定決着が多くなる。マニー・パッキャオもその例にもれない。フライ級からスーパーライト級まで階級を上げた偉大な複数階級王者である。しかし、パッキャオはウェルター級にまで階級を上げてからは、ノックアウトが影を潜めた。キャリア終盤17試合の戦績は12勝5敗(1KO)だった。
フルトン(21勝0敗、8KO)はキャリアを通してずっとスーパーバンタム級で戦ってきた。このフィラデルフィア出身のテクニシャンがプロデビューしたのは2014年のことだ。その頃の井上はジュニアフライ級で戦っていた。スーパーバンタム級より14パウンド(約6.35kg)軽い、4階級も下のクラスである。この日本人スターは118パウンド(バンタム級)まで圧倒的なパワーを見せつけてきた。しかし、122パウンド(スーパーバンタム級)でもその威力は通用するだろうか。
28歳のフルトンはプロデビューして以来ダウンを喫したことが一度もない。ボクシング界きっての巧妙なファイターであり、これまでのキャリアで危ない場面に陥ったことさえ稀である。唯一の例外は対ブランドン・フィゲロア戦だった。現在はフェザー級に移ったフィゲロアは1060発のパンチを放ち、そのうち304発を的中させ(30%の人率)、フルトンからスコアを奪い続けた。しかし、フルトンがやや正確性で優り(726発中269発、ヒット率37%)、2-0判定勝利をもぎ取った。
もし井上がフィゲロアに近い数だけのパンチを当てることができれば、おそらくフルトンにはチャンスはないだろう。3階級にまたがってパウンド・フォー・パウンド最強と見られるパンチを300発以上食らっても、なお立っていられるファイターがいるとは想像しにくい。しかし、ボクシングとはスタイルがすべてだ。井上はフィゲロアに比べるとはるかに慎重なタイプである。
ボクシングファンはフルトンが最近見せた試合を達人の域にあると評価する。昨年6月、元統一世界王者のダニエル・ローマンと対戦した際、フルトンは相手のパンチを673中113発しか被弾しなかった(ヒット率17%)。その類まれな防御テクニックにより、フルトンは3-0判定でフルマークの勝利を挙げた。なおかつ、この王者は対戦相手のほぼ倍にあたるパンチをヒットさせてもいる(603発中218発、ヒット率36%)。
フルトンは東京でも同じような成功を収めたいと願っているだろう。しかし、今回の相手はダニエル・ローマンよりはるかに強敵である。
手数とスイッチング、そして身体能力とそれを持続する耐久力がカギ
井上との第1戦に臨む前(2019年)のドネアに話を聞いたことがある。ドネアは自信に溢れた様子で次のように語った。
「私にはパワーがある。井上を恐れてはいない。これまで井上と戦ったボクサーたちは井上のパワーを警戒し過ぎたのだと思う。私は違う。この挑戦を楽しみにしている。井上はパワー、スピード、知性、そして経験を持ったボクサーと対戦することになる。私たちはこの試合に向けて十分な対策を練ってきている」
フルトンはドネアの言葉を参考にするべきだ。最初に、井上のような相手を対戦するときに、恐怖心を見せてはいけない。もし逃げ続けようとしたなら、それはサメに血を見せるようなものだ。ただ井上を勢いづけるだけの結果になる。フルトンには『フィリピンの閃光』の異名を持つドネアほどのパワーはないが、手数を多くして井上を警戒させるべきだ。
2番目にはドネアが言った「対策」がキーワードになる。井上は常に対戦相手のミスを窺う。だからフルトンは井上の意表をつかなくてはいけない。フルトンは熟練したスイッチヒッターであり、井上はそのような相手と対戦した経験には乏しい。
普通に考えれば、井上の敗北を予想することは賢明ではない。私は一度もそれをしたことがない。しかし、フルトンには挑戦者の立場で戦う井上を苛立たせるだけのスキルがある。フルトンはナチュラルな体格でも井上に優る。身長では約4センチ高く、リーチでは約8センチ長い。この身体的な有利条件に抜群のテクニックを合わせれば、「ザ・モンスター」こと井上を慣れない長丁場の戦いに引きずり込むことは可能なはずだ。
フルトンは12ラウンドを戦った経験が5回あり、そのすべてで判定勝ちを収めている。あとは、ボクシング界きっての才能の持ち主である井上を凌駕するだけの身体能力とスタミナが、はたしてフルトンには備わっているかとなる。
フルトン対井上尚弥 主なオッズ(遊雅堂)
フルトンの勝利:3.50
井上尚弥の勝利:1.30
ドロー:16.00
フルトンの判定勝利:4.5
フルトンのKO/TKO/反則裁定/負傷判定での勝利:9.00
井上尚弥の判定勝利:3.25
井上尚弥のKO/TKO/反則裁定/負傷判定での勝利:2.10
※データは7月19日時点。